【サクッと小話】Brand new day

きっと「作品」と言うモノは作者の体の中で研鑽されて吐き出されたからこそ共感の余地がある形を成しているのであって、アイディアの種の段階では、誰にも理解されることのない、その人だけの世界の中で作られてゆくのだろう、と言う話。

 

ちょいグロです。

 

 

 

 

 

 

 

 

Brand new day

 

 

 

 

 

 手のひらの下部に固まる筋肉に柄を押し当て、かぼちゃを断つようにして垂直に力を加える。もろい浴槽の蓋の上での作業。力を入れすぎては蓋が壊れてしまうかも知れない。注意しながら注力し、みし、と2ミリほど内部に沈み込ませたところで、バランスを取るために峰にも手を添えて、息を深く吸い込み、ふっと吐き出しながら、肉の中へ包丁を埋めていく。汗が鼻筋を伝ってしたたり落ちている。

 

 歯を食いしばりながら作業に集中していると、音もなく血が噴き出して両目を直撃した。視界を塞がれ慌てて刺さったままの包丁から手を離し半歩あとずさると、先にほぐして転がせておいた胴体から脈々と流れる黄色い脂肪に足を滑らせ、狭い浴室内に音を響かせ転倒してしまう。肘を強打し暫く眉間に皺を寄せて口元を歪ませていたが、なんとか気持ちを持ち直し、目を開けられないままにゆっくりと立ち上がる。

 

 服の袖で顔を擦るが何度繰り返してもぬぐえている感覚がない。眼球の痛みを堪え視界を開かせると、映る自らの両手は鮮血に染まっていた。両手だけじゃない。少し目線を動かせば、肉眼で捉えられる自分の体の肌色部分は皆無だった。服もろとも、濃ゆい紅色に塗り替えられていた。

 

「総頸動脈ってこんなに凄いのか…」

 

 小さく呟いた。

 異臭と異界のなかで長時間労働を強いられ、すっかり体力を消耗してしまい眠くなっていたのだが、おかげで目が覚めた。誰に強いられたわけでもない。自分自身に強いられている。理由は明確で、「やらなければならないから」の一言だ。

 

 やめたい。もう面倒だ。疲れた。眠い。これだけに没頭できる人生じゃないのに。なんでここまでやらなければならない。

 

 何度も手を止め、ため息をついて、自分を鼓舞させてきた。

 そうして放棄と奮闘を繰り返していくうち、ようやく一筋の光明が差し込んだ。

 溶けたバターのような粘着性のある脂肪分が排水溝を詰まらせて、ごぽごぽと溢れかえる音が浴室に残響している。しきい値を上げたい。そう思った。ハッとした。堰を切ったようにイマジネーションが湧いてくる。ほんの少しのディレイを利かせてハース効果を加えれば、Tシャツの胸部分に光るワンポイントのような印象が作り出せるのではないか。あとはそれを軸として、Tシャツの生地や襟の形、丈の長さ、袖の折り返し等を肉付けしていけば良い。

 

 ああ、無駄じゃなかった。

 たとえ誰に評価されなくてもいい。

 でもできれば評価されたい。

 唯一無二の、自分という人間から生まれた感覚なのだから。

 認められたい。今までの人生が間違ってなかったことを、誰でもいいから肯定して欲しい。

 こんなに大変な思いをして出来たものなのだと、理解して欲しい。

 

 ああ、でも、もういいや。

 なんでもいいや。

 ようやくこの苦行から解放されるーーー。

 

 

 

 

 

 

 【この曲を作るのにはいつも以上に苦労しました。明日への希望の歌です。明けない夜はないと言います。どんなに辛くても挫折しても前を向き続ければきっと報われるはずです。タイトルは『brand new days』。聴いて下さい!】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 終

 

 

 

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


Back to Top ↑